魚の感想

twitterの外付けの感想置き場として使っています。

蜘蛛の糸、蛾の羽ばたき

春先、コロナウイルスで社員がほぼリモートワークになっていたのに、デスマ案件を抱えた僕のいるチームはバリバリ出社していた。

コロナ禍の中、少数精鋭で出社する姿はまさに黒の教団のエクソシスト調査兵団みたいな面構えになっていく我々。なぜ私はここにいる? と気付いたらミュウツーみたいなことを考えていることもしばしば。

 

リモートワークにはならなかったものの、さすがに会社も感染対策に全く無頓着なわけではなく、窓を全開にして換気を行っていた。

 

ところが、会社の窓には網戸が無いので結構虫が入ってくる。

特に定時を過ぎたあたりになると、光で集まるのか、ホコリみたいに小さな虫からブンブン音を出す虫まで、色んなサイズの羽虫がデスクの周りに飛んでくる。

 

その日も、キーボードから手を離して所在なくデスクの上に置いた僕の手を、小さな羽虫が這っていた。

 

あぁ……虫がいるな……くらいの認識で僕は小さな白いホコリのようなその虫を眺める。

 

僕は虫への嫌悪感が小さい方だと思う。

ブンブン音を出すタイプの虫が顔の周りに迫ってきたら手で払うし、ゴキブリとかも好きになるのは難しいが、この程度の小さな可愛い虫が手を蹂躙しているところでなんのことはない。

文字通り、全ては自分の手のひらの上だからだ。(孫悟空をこらしめるお釈迦様かお前は)

 

今日はこのホコリみたいな虫がたくさん来ているらしい。色んな人のデスクにお邪魔して作業を妨害している。

虫を見つけた社員は叫び声に似た悪態をつきながら虫を殺しにかかる。大の大人が小さな虫1匹に格闘しているのは滑稽で面白い。

 

僕は自分のところに来たホコリ虫を潰さないように指でそっとデスクの隅に着ける……さぁ逃げなさい。気まぐれで生き物を助けるのは気持ちいい。

 

そのままホコリ虫はどこかへ行ってしまった。

 

楽しい来訪者も来たりするが、基本的に仕事は楽しくない。今日も今日とてハチのようにチクチク言われる。

 

その作業まだやってるの? あの仕事やったの? あれの管理どうなってるの? なんでできないの? どうすればできるようになるのかちゃんと考えてる? なにが言いたいの? 向いてないんじゃないの?

 

そんな風に言われ続けるものだから、自分の社会的存在価値を疑ってしまう。

 

ゴキブリは嫌われているが、街のゴキブリは人間の食べ残しや酔って吐いたゲロなどを食べて掃除しているらしい。

もしかして、トータルで考えたら自分よりもゴキブリの方が社会の役に立っているのではないか? そんな風にも思える。

 

話は逸れるが、ゴキブリはエビフライの尻尾と成分が同じだとよく言われている。ということはゴキブリって揚げたら案外ウマイのではないか?

 

あっ、人間のゲロを食べたゴキブリを揚げて食べたら……循環型社会になるのでは?

 

僕は言葉で詰められながらよくボーっとこんな妄想をしている。話は聞いていない。これはもうクセのようなもので、激しい言葉をかけられると思考が現実から逃げるのだ。

 

早く話終わらないかな……現実に戻りたいんだけどな……

 

しかしリモートワークで人員が減った社内には、違う話題で説教を逸らしてくれる人どころか、僕を哀れみの目で見てくれる人もいない。

この説教地獄はどこまで続くのだろうか? そう思ったとき、1匹の蛾がヒラヒラと蛍光灯の周りを舞っているのを見つけた。

 

蛾はヒラヒラと舞い、僕が説教を受けている真上へ来ると、そのままゆっくりと下降してくる。

こういう類の虫は光に走性がある。その本能を無視して、僕と上司の間に降りてきた。

 

上司としては目の前にいきなり蛾が現れたのだからたまったものではなかったのだろう。うわぁと思いっきり手で払いつつ、たじろいで距離を取る。

距離を取った上司にならって、僕も距離を取ってビックリしたフリをする。2人の間にいい感じのソーシャルディスタンスが出来上がった。

 

僕はそのまま勢いで自分のデスクに戻ってしまう。上司もなんだかペースを乱されたようで、そのまま説教が終わった。

 

自分のデスクに戻ってみると、なんとあのホコリ虫がデスクの上にいるではないか。

お前、仲間を呼んでくれたのか?

 

みなさんは、虫に助けられたことがあるだろうか?

 

僕はある。

(カンダダかお前は)