去年と同じように今年の年末も読んだ本のマイベストテンを発表していきたいと思います。
今年は長文になったので、ランキングと写真だけでも見てください。
なお、毎年のように、さっさと1位を教えろよという人のために1位から紹介していきます。
- カンバセイション・ピース
- パディントンの大切な家族(パディントンシリーズ)
- うるわしき日々
- 究極のボートレースガイドブック 自分でレース予想を組み立てられるようになる
- むらさきのスカートの女
- あさつゆ通信
- 原子力の社会史
- アメリカン・スクール
- ビバノンノン
- デス・ストランディング

今年の最初の方で「これ今年の1位だろ」と思ってしまった保坂和志のカンバセイション・ピースが1位です。
僕は保坂和志が木の話をしているだけで嬉しくなってしまう脳のつくりに、ここ1,2年で作り変わってしまったため、カンバセイション・ピースで木登りの話や花に水をやる話を数ページに渡ってず〜っと話しているだけで、勝手にドーパミンが出てくる。もう助けてくれ。
保坂和志がちゃんと小説を書くと全く内容が無い話になってしまうのだが、その内容の無さの中にある、そっけない人間の動きとか、登場人物の考えることとかが、読んでいてコレコレ〜!! となってしまうのだ。
コレコレ〜!! が出てくる作家が最近は保坂和志と晩年の小島信夫の作品で、しばらく僕はこの2名の作家が残したものだけで満足して生きていけるような気がする。
弊害がある。ストーリーがある“ちゃんとした”小説を読むと、「この小説はストーリーがちゃんとし過ぎていてまだまだだなぁ」と意味不明な上から目線の感想というか心の動きのようなものが発生してしまい、純粋に楽しめない。これは良くない。
今年のマイベストテンの内容をひと通り書き終えて、また1位の内容に戻ってみたのだが、1位なのに驚くほど内容が無くて笑ってしまった。
だが内容があるからといって1位とは限らないということだろう。
カンバセイション・ピースを読み終えたのは、高速鉄道を乗り間違えて、駅のホームで次の電車を待っている時だった。暗くて寒かったのを覚えている。
本を読み終えた瞬間の情景というのは何故か記憶に残りやすいような気がする。今それを思い出した。

福音館文庫から出ているパディントンのシリーズの最終巻(10巻)を今年読んだため、シリーズ全部を合わせて2位ということにしたい。
パディントンは児童文学なのでかなり読みやすく、ちょっと読書疲れを起こしたら箸休め的に読むのにちょうどよくてスイスイ読んでいた。
ブリティッシュジョーク(ブリティッシュコント?)的な話のつくりはみんなこうなのだろうか? と思うほど、パディントンの話はMr.ビーンと構成が近い。
パディントンという、ペルーからやってきた人語を理解するクマがイギリスで騒ぎを起こして、なんだかんだ上手くいったり、普通に重大事件を起こしているのに偉い人の鶴の一声で許されたり、全て隣人のイジワルじいさんのせいになって騒動が決着したりする。
イジワルじいさんは確かに性格が悪いのだが、パディントンが起こす重大インシデントの全ての責任を負わされるほど悪いことはしていないのに、100%の悪にされたりして可哀想な回があったりする。
子供向けだからといってナメてはいけない面白さがある。パディントンがイギリスからフランスへ出国する時のパスポートのくだりは声を出して笑ってしまった。
2〜3巻くらいからだんだんとハマってくる感覚があったように思う。読む人はそういう心づもりで読んでみてほしい。
パディントンを10巻全て読み終わった時、自分でもびっくりしたのだが、軽いパディントンロスのような状態になってしまい「もうパディントンに会えないのか……」とちょっと落ち込んでしまった。
しかしちょうど今年、パディントンの新作映画が公開されたので、それを見ることで元気を取り戻すということをやったのだった。いい映画だった。

※9巻だけどうしても文庫版が手に入らなくて単行本版になっている
3位 うるわしき日々(小島信夫)


※最初に手に入った上の単行本を読んで、講談社文芸文庫版も欲しくなって買いました。
去年から読み始めた小島信夫。その作品の中でも評価が高く、欲しいな〜と思っていたのだがなかなか本屋に無くて古本を探してやっとこさ……という感じで手に入れた。
小島信夫をいくつか読んで分かったのだが、僕は歳を取った晩年の小島信夫の書く、エッセイのような小説が好きだ。
エッセイのような小説であってエッセイではない。そして私小説でもないらしい。
内容は、明らかに小島本人を指すであろう老作家とその妻が、アルコール依存症の息子の入院先(転院先)を探すために苦労する、というのがメインの内容である。
この家族は、問題を抱えている。その大きな問題は、障害を持ちアルコール依存症で入院する息子の去就についてなのだが、それだけではなく、妻の認知症の進行や自分の老いの問題など、とにかく将来に良いことがない予感がずっと続く。全くうるわしくない。
そして主人公の老作家の自宅の話もふんだんにある。僕は小島信夫の所有している住みにくいデザイナーズ住宅の話を読むだけで嬉しくなってしまう。小島信夫はとにかく自分の家をこき下ろすのだ。
だがその書きっぷりには愛着も滲んでいるような、そんな書き方をしているのだ。彼は自分の家と息子に対して似たような気持ちで文にしているような気がする。小島信夫というのはそういう風に息子と家を愛するしかなかった人なのだろう。
うるわしき日々の中で主人公の老作家は責任感に追い詰められていく、今までの人生の清算が、彼の人生の晩年にのしかかっている。
うるわしき日々とはもう戻れない過去のことなのか、それとも少し先の将来と比べると、まだマシな今日のことなのだろうか。
4位 究極のボートレースガイドブック 自分でレース予想を組み立てられるようになる!(永島知洋)

今年はボートレースに初めて行き、その後も何回か行った。何回か行くと楽しみ方もだんだん分かってくるのだが、出走表の見方とか、舟券の買い方のコツは勉強しないと分からないので書籍が欲しかった。
情報を得るならネットを使えばいいのだが、初心者だといきなりネットで体系的に学ぶのは難しいので、僕はこういう書籍を欲しがる。
この本はボートレースの番組やYouTubeで名前と顔を売っているピン芸人の永島知洋という方が出しているので、変な本ではなさそうだという理由で買ったのだが、期待以上に分かりやすくてとっても良かった。
ボートレースの基礎知識や舟券の買い方はもちろん、出走表の見方とか、具体的な予想の立て方などの楽しみ方をイラスト付きで上手に示してくれる。しかも全国のボートレース場の紹介もあって、旅行ガイドブック的な要素も楽しい。
高度な舟券の買い方とか稼ぎ方とかではなく、あくまで初心者へのガイドに終始しているところがとっつきやすくていい。
ただし、僕が知りたかった全てが書いてあるわけではなく、ボートレース場にいる予想屋のおじさんおばさん達は一体何者なのか? とか、出走前のレーサーに大声で何か言っているおじさんはOKなのか? とかは載っていないので、相変わらず謎である。
だがとりあえずこの本のおかげで出走表の見方が分かったのは本当に有り難く、友達や会社の人とボートレースに行った時、出走表の見方をドヤ顔で説明できたので、今年非常にお世話になった一冊である。
5位 むらさきのスカートの女(今村夏子)

芥川賞を受賞した作品をちょこちょこ読むようになったのだが、その中で一番分かりやすくて面白かったのが今村夏子のむらさきのスカートの女だった。
純文学にありがちな難解すぎる感じではなくて、ホラーと昼ドラとちょっとしたコメディ要素がある感じの話だ。世にも奇妙な物語とかにギリギリ出てこなさそうな奇妙具合という感じ?(分かりにくいな)
純文学あるあるというやつで、登場人物が全員ロクでもない。誰が一番悪いやつかとか、誰が自分に近いかを考えながら読むのが楽しいと思う。むらさきのスカートの女に限らず、純文学においてはそんな風に読むのが楽しいと最近思う。
職場の人間関係にトラウマがあるような人は読まない方がいいかもしれない。僕も今年の会社の忘年会が悪口大会になってしまって、ウチの会社も純文学のような人間関係だよなぁと再認識した。きっとどこの職場も純文学なのだ。
そんな人間関係の連鎖の中に自分も含まれていることが、たまに無性に嫌になる。あっ、そういう人はむらさきのスカートの女を読むのはいいかもしれない。このぶっ飛んだ人間関係とキャラクターのフィクションは、現実の人間関係を見つめる目をマイルドにしてくれるような気がする。
でも、あなたもむらさきのスカートの女にならないように気を付けなければいけないよ。
6位 あさつゆ通信(保坂和志)

や〜〜〜っと読み終わった!!
2018年に東京へ行った時、新宿の紀伊国屋書店で買い、何度も何度も積読し、ようやく今年読み終わった。
面白くないわけではない。保坂和志の文体が好きな人は多分たまらないはずなのだが……いかんせんストーリーが無さすぎる! こんなに起伏のない話が小説として成立してしまっていいのだろうか、寝る前に読むととってもいい感じで入眠できる。いや、つまらない訳ではない(何回も言う)。
少年時代の記憶の描写は自分の過去に最大公約数的にピシャリと重なり、その時に文章から湧き起こる懐古の気持ちはなんとも心地いい。その心地よさで眠りに入っていく感じに一時期ハマっていた。
だが、寝落ちすると、どこまで読んだのか分からなくなりがちで、それで読む気が減退したりもする(どうすりゃいいんだ)。
僕は鎌倉を知らない。でも保坂和志の書く少年時代の鎌倉の情景は僕らの少年時代にきっとマッチしていく。それが最大公約数的ということで、“あまり”をふんだんに含んだおじさんの少年時代の記憶を読んで僕らはエモくなる。
それにしてもこれはなんだ? エッセイ? 自伝? 記憶の連想ゲーム?
どうやら元々は新聞連載の小説らしい。だから見開きの右上にでっかく数字があるのか、多分これが新聞の連載回数ということなのだろう。
普通の小説に飽きた人や、本を読みながら寝落ちしたい人、どうぞ。

吉岡斉(よしおかひとし)という科学技術史の専門家で、国の高速増殖炉懇談会や福島原発事故の事故調査・検証委員会の委員も務めた人が、日本における原子力開発を批判的にまとめた科学史の本である。
この本を知ったのは、吉岡斉の活動内容をまとめた資料展だった。九州大学で資料展が一般開放されているという話を知り、九州大学の伊都キャンパスへ行ってみたところ、オープンキャンパスの日程と合わせて一般開放されているということを現地で知り、九州大学を目指す将来有望な高校生達の中にアロハシャツのおっさんで混じるというかなり浮いた存在になってしまったのは今思い出しても恥ずかしい。
本の話。
まず、さすが九州大学の偉い先生だけあって文章がめちゃくちゃ論理的で圧倒される。例えば、まえがきでは『「批判的」とは』というところの定義をやっていたりする。そして、結論を先延ばしにするような書き方はしない。私は原子力開発に対して批判的な立場を取る人間です。何故ならこういう理由だからです。と、最初に表明と結論がある。
最近のネットに転がっているような結論を後に回して、ここから先は有料会員のみが購読可能です、と書いてあるような文章とは気持ちよさがまるで違う(有料で買わないといけないのはどっちも同じだが、そういうことを言いたいのではなくて、文章の構成のことを言いたい)。
僕は、科学史という科学の歴史を概論したものを初めて読んだ。
原子力というトピックで始まりから現在まで(福島原発事故の少し後までなので、現在というには少し過去の話になってしまっているが)を通貫して論じているこの本は、事故後のエモーショナルな原発に対するイメージしか持っていない自分の、物の知らなさがよく分かる本でもあった。
この本には事故の被害者や原発作業員などの当事者の感情や考えなどは入っていない。あくまで歴史書として、ひとつ引いた視点と専門家としての見解が述べられている。それがいい。
原発についてはどうしても個々人の考え方をベースにした論調が多い現在、そういうものに辟易した人は、歴史の勉強ついでにオススメできると思う。
あと、批判の言葉にエッヂが効いていて面白い。インテリチクチク言葉が得意な人なのだろうと思う。

小島信夫が芥川賞を受賞した「アメリカン・スクール」が収録されている本。
「アメリカン・スクール」よりも小島信夫の幼い息子との話である「微笑」が自分には刺さった。うるわしき日々と同じく、自分には小島信夫の家族の話が刺さりがちのようだ。「微笑」はちょっと、読むと辛い気分になるような話で、障害のある息子とスイミングスクールに行く話なのだが、父親である自分の、息子に向ける感情の黒さに自分が自分で気付いていない罪深さというかどうしようもなさが出ている感じがする。
それでもって、その描写がはっきりと書かれている訳ではない小説なのだ。その黒さを雰囲気で表している。そこが小島信夫の小説の上手さなのだと思った。
さらに、それがフィクションではないのだからどうしても辛い。いや、エッセイではないのでフィクションなのかもしれないが、小島信夫の他作品に障害者の息子はこれでもかというほど登場するので、それを知った上だとフィクションとは思えないリアルなのだ。
小島信夫はどうしてこんなにも自分の中の醜い部分を開示するような小説を書けるのだろうか。
生活を切り売りする作家というのはいるが、これは人間性を切り売りしている。しかも他作品でも似たようなことを筆致豊かにやっているので小島信夫は恐ろしい。もしかしてドMなのだろうか?
9位 ビバノンノン(滝口悠生)

小島信夫に影響を受けた保坂和志にさらに影響を受けた作家を読んでみようと思って、滝口悠生を今年から読み始めた。
保坂和志の作品には高度経済成長期の空気感があって、登場人物のメンタリティにどこか余裕があったり、就職せずフラフラしててもなんとなかると考えている人が大半だったりする。今の時代の人の感覚とはちょっと遠い感じがするので、なるべく自分の世代に近くて、保坂和志っぽい作風の作家だともっと好きになるんじゃないかと、滝口悠生を選んでみたのだった。
滝口悠生の作風は確かに保坂和志と結構似ていて好きになりそうな感じがある。今後も色々読んでみたい。
一番良かったのが、新潮の2026年1月号に載っている「ビバノンノン」という短編で、僕の住んでいる福岡の地名がいっぱい出てくるから単純に好きになったのと、コミカルな箇所があって笑ってしまったのでこの作品を面白く思った。
ビバノンノンでは、高卒でうどん屋に就職した女の子が主人公(の一人)なのだが、その子が親や先生から「うどんは大学を卒業してからも打てる」と説得されたという所で笑ってしまった。確かにってなった。
では何故その子はうどん屋に就職する道を選んだのか? というのが気になるところで、その理由も語られるのだが、物語の核はそこではなくて、最終的には家族・親族そして親しい人達との関係性が核になっている。滝口悠生は家族の話を書く人みたいだ。家族といっても特殊な家族の話が多いみたいで、お涙頂戴のホームムービー的なものや、闇を抱えた重い話ではなく、特殊な形の家族なのに割とあっけらかんとしている。そういう空気感が保坂和志っぽいと思った。
それと、ビバノンノンと同じ登場人物が出る短編が、新潮の2025年8月号にある「テレポートの軌道」という作品にも出てくるので、同じ世界線で何個も作品を作っている途中なのかもしれない。

※写真は自分へのご褒美に買ったスチールブック版ですが実際読んだのは電子版です。
PS4のゲームのデス・ストランディングの小説版(原作は小島秀夫)。ゲームも持っているのだが、敵キャラが怖すぎて序盤で挫折した。
だがストーリー自体は気になっていたので小説版でそれを知ることができてありがたい限りだ。
メタルギアソリッド3世代の僕は、いくつか触れていない作品もあるが、小島秀夫作品になるべく触れるようにしている。
小島秀夫作品は最近、クリエイター色がかなり強くなっていてどんどん映画っぽくなっている。そしてメタルギアよりもかなりホラー色が強めになっている。なんでこんなに怖い作品を作っちゃったんだよと僕は思っている。だが小島秀夫自身もどうやらホラーはあまり得意ではないっぽい(SNSで言ってたりする)。
じゃあなんで自分の作品はあんなにホラーなのか? ホラーが怖いからこそ、面白いホラーが作れるということなのだろうか。
なんにせよ、僕のように怖くてデス・ストランディングをプレイできなかったり、ゲーム機を持っていない人で、ストーリーが気になる人には是非とも小説版をオススメしたい。デス・ストランディング2も小説版があるのでこちらもオススメしたい。
ただ、少しでもゲームに触れておいて、情景のイメージとか空気感を知っておくとより楽しめると思う。
今回のベストテンではデス・ストランディングが唯一のSF作品となった。
2025年もSFを読まなかった訳ではないが、どうも小島信夫や保坂和志といった純文学系の作品だったり、ノンフィクション系の書籍が自分に刺さった年だったみたいだ。
来年はどうなるんでしょうかね。という感じで、今年のマイベストテンを終えます。ありがとうございました!