通帳のページがいっぱいいっぱいになったので受付に行った。ベーッと出る紙の番号札を取った。
ご用件は何ですか? と聞いてきたおばちゃん銀行員に通帳のページが……と伝えるとお待ち下さいと座らされた。おばちゃんはマスクをしていた。僕はしていなかった。
なんとなく席を立って、置いてあるアルコール消毒で手を洗ってみたけど、何もかも遅いんだろうなとも思える。だからこれはなんとなくでしかない。
アルコール消毒した後に番号札を握ったらインクが滲んで手が汚れた。でも僕は気にしなかった。
若い女性の銀行員に滲んだ番号を呼ばれた。ページがいっぱいの通帳を渡して、新しい通帳のデザインを選んで下さいと言われたので、同じデザインを選んだ。
銀行員は新しい通帳に僕の名前を書いた。字がうまかった。ボールペンのインクが乾く前に銀行員が指で触ってしまい、僕の下の名前が少し滲んだ。
銀行員は僕にすみませんすみませんと謝った。でも僕は気にしなかった。
銀行員はマスクをしていた。僕はしていなかった。
帰る時にもう一回アルコール消毒で手を洗ってみた。番号札のインクは僕の手の中で薄く伸びて、よく分からなくなった。
帰り道、謝っていた銀行員を思い出して、気にする人がいるかもしれないから気にするというのは窮屈だなと考えていた。そういえば、あの銀行員はインクの汚れをどうしたのだろうか?