年末感のあるブログを書きたいな〜となったので、今年読んだ本のベストテンを作って、それぞれの感想を書いていきます。
今年出版された本じゃなくて、今年読んだ本なので、結構昔の本もあります。
あと、長くなってしまって、正直読む方もダルいと思うので、もったいぶって下の順位から書いてくのではなく1位から書いていきます。
何ならもう目次だけ見て「ふ〜ん、こいつこういうの読むんだ」くらいに思ってもらったら、もう読まなくてもいいです。8,000文字くらいあるので……
今年読んだ本の1位は「タイタンの妖女」としました。名作ですね。
すごく面白かった。というか引き込まれた。
面白くて引き込まれたのだけれど、どういうところが面白かった自分でもよく分かっていない……とにかく面白かったのだ。
面白い! と思ったものは、なぜ面白いのか自分なりに分析して、今後の作品選びに活かしていきたいのだけれど、どこが面白かったのか分からない。
ここらへんに何か大事なものがある気がする。「タイタンの妖女」の中に自分が好きなものが隠れている。
なぜ好きなのか、色々考えてみたのだけれど、軽い語り口で繰り広げられるハリウッド映画みたいな壮大な冒険譚かもしれない。どこかふざけた感じの世界観かもしれないし、あの変な歌かもしれない(借りちゃったテント あ、テント あ、テント)。
聖書投資法かもしれない。聖書投資法が明らかになるときの、あのもったいぶった書きっぷりとかズルい。聖書投資法のくだりからズルズルと「タイタンの妖女」に引き込まれた気がする。
あと思ったのだけれども、ハングオーバー!と似ている気がする。
ハングオーバー!を観たときに、当時はシュタインズゲートとかバタフライ・エフェクトを見ていたので、「これは逆バタフライエフェクトだ!」と思った。
いくつもの未来が現在の行動で変わっていくバタフライエフェクトではなく、一つの確定した未来に向かって現在が展開していく。ハングオーバー!はそういう話だと思っている。
他にそういう話の構造になっているのはサマータイムマシン・ブルースだろうか?
タイタンの妖女も確定した未来に向かってみんなが振り回されていく。ここでいう“みんな”は登場人物ではなく地球と火星の人間みんなだ。
そしてその確定した未来を決めているタイタンの犯人の目的のしょうもなさが、宇宙の壮大さと人間一人ひとりのみすぼらしさを示してくる。
しかしタイタンの妖女は人間一人ひとりを丁寧に書く。こいつはこういうやつなんだ、こいつはこういうことを考えている、こいつの大事なものはこういうものだ……といった感じで。単なる説明というわけではなく、人間一人ひとりのキャラクターを魅力的に見せていく。そこに文量を惜しまない。
広大な舞台設定の中で人間の丁寧な描写をすることで、一層人間のみすぼらしさを際立たせているのかもしれない。そういう効果がある気がしてきた。自分は人間のみすぼらしさが好きなのか? そういえば、ここ数年で1番面白かった三体だってそういう話かもしれない。性格悪い人かな?
2位 地球をハックして気候危機を解決しよう: 人類が生き残るためのイノベーション
これは現実だけどもはやハードSFだ。
個人的に、環境問題を追いかけていくのが今最もディストピアSFをリアルに感じることができると思っている。
SFを現実で感じることによって、フィクションとリアルのつながりを自分の中に作れる。その感覚は気持ちいい。だからリアルの中にサイエンスフィクションを求める。
ひとつは電力(エネルギー)の供給問題がディストピアSFのいい題材になると思っている。現実にあるこの問題は突き詰めていくとディストピアに到達するはずだ。
もうひとつが気候変動で、電力問題と重なる部分があるのだけれど、もう少し細かい枠組みで考えたときには電力問題と別ジャンルとしてディストピアSFの題材になると思う。
これらが今後のSF業界で熱くなるはずだ(というか読みたいからなって欲しいだけだ)。
というわけで、環境系の本をちょくちょく読むことにしているのだが、この「地球をハックして気候危機を解決しよう」は完全に当たりだった。
面白すぎる。もうこれはハードSFです。でも現実なんです。
現実の人類ってちゃんと(?)小説の中の人類と同じように無茶苦茶なことをやろうとしたり、やらかしていたりするんだなぁ。
あぁ、小説の中の人類ってフィクションじゃないんだ……フィクションとリアルの繋がりを見つけるために本を探していたら、そもそも最初っから繋がった状態で提供されているこの本に辿り着いてしまった。
本の概要を説明していなかった。
この本は、気候危機の特効薬となりそうな方法をどんどん紹介していく本である。コツコツと二酸化炭素の排出量を減らしていくだけでは地球の回復が間に合わない回帰不能点まで来てしまっているという考えに立ち、それならば無理やり環境を人間の手で手術してやれ! という発想で考えられた色々な事例を紹介する。
例えば
- 街全体を白く塗って太陽熱を反射させる
- 都市部の豪雨水害防止のため、あらかじめ山間部で人工的に雨を降らせる
- 海に鉄を撒く
- ラグランジュ点に太陽光を遮る“パラソル”の役目をする人工衛星を大量に設置する
- 地下都市計画
- 氷河が溶け落ちるので下から支える
等々。みんな真剣に考えているのがいい。これはSFだなぁ。
それは無理だろっていう方法はちゃんと無理だし、それなら行けそうだっていう方法もまだまだ現実的じゃない。
地球が壊れるのが先か、我々が地球のサイボーグ化手術に成功するのが先か、その戦いに将来はなっていくのかもしれない。う〜んSFだなぁ。
3位 ハレルヤ
言ってしまえば、余命いくばくかの飼い猫の延命治療記なのだが、作者が保坂和志なので単なるお涙頂戴の感動ストーリーではない。
この作家の猫に対する洞察からくる描写は、他の小説の猫の描写と比べると異質で、この作家は猫を猫としてしか描写しない。
動物番組とかで動物にアフレコしたり、吹き出しを付けたりして、動物が人間のように考えて物を喋るなんてことがあるがそういう事をこの作家はしない。
だが、猫が何も考えていないし、人間の言葉や考えを理解していないとも言わない。
猫は人間の意思が分かるし、猫も人間に伝えている。だがそれは言葉ではない。言葉を超えたものだ。そういう事をこの作家は書いていく。
余命わずかな猫との対話で気付いた、言葉を超えた繋がりを丁寧に書き留めていく。
その日々が、特に飾らない素朴な言葉で語られていく。
筆致はなんて事のない日常だ。死に向かっていく日常だけど……。でもその少し悲しい日々がだんだん輝きを帯びてくる感覚に読んでいる僕はなる。
作者はある日、動物病院の近くの公園で、猫を芝生の上で遊ばせていて、そのとき老夫婦が近くを通りかかる。
作者は老夫婦の会話を耳に入れながら、草の上にいる猫を見て泣いてしまう。
このシーンの美しさを僕は人に伝えられる気がしない。無理だ、言語化できない。
この作家の文章を読んでいると、僕はだんだん何かの真理に近付くというか、何かとんでもないものの側に座っているような気分にさえなってくる。
あと、猫を飼っている人は、色んな治療法とかが出てくるので読んどいたら何かの役に立つかもしれないと思った(急に実用的な話になった)。
4位 ポロポロ
ベースは戦争の体験記なのだけれど、冒頭に宗教家の父親が「ポロポロ」をやっていた。というエピソードが入る。
ポロポロとは何か? 僕には説明するだけの語彙が無いのだが、物語を物語ってしまうことで避けられない矮小化への反抗のようなもの、と書ける。
……つ、つまり、戦争の経験を物語化する事で戦争が物語の形に固定されてしまうわけだが、戦争が物語として固定されてしまっていいのか? という気持ちが作者にあり、その反抗がポロポロなのだ……って書いてて自分でもよく分からない。
戦争の物語への固定化というのは、戦争がフィクションになるということではなく、死んでいった者達、見たもの聞いたこと、そういう悲惨な全ての物が物語という1人の人間の作ったものに固定されてしまう事である。
作者は物語化への危機感というか罪悪感があって
物語化を忌避している。
しかし当たり前だが物語にしないと人には伝わらない。
伝えたいけど物語りたくない。その葛藤を文章から感じる。戦争体験記なのに文体がめちゃくちゃ淡白なのだ。
そして、葛藤した末に作者はポロポロにたどり着いている。
答えではないが、子供の頃に父親が信者たちの前でやっていたあの「ポロポロ」が一番答えに近いのではないか。ということが本の最後で語られて、冒頭の「ポロポロ」に繋がっていく。
つまりこの作品は戦争体験記であり、実験的哲学書なのだ。
5位 海洋プラスチックゴミ問題の真実: マイクロプラスチックの実態と未来予測
今年は海洋プラスチック、もといマイクロプラスチックにちょいハマりした。
ちゃんと知識として仕入れようと思った時に読む本は、結構しっかりとネットでリサーチすることにしている。
変な人の書いた本だと変な知識や妄想が入ってきちゃうので、それは避けたいのだ。
この本は本当に海洋プラスチックの研究に大きく寄与している研究者、というか大学教授が書いていて、しっかりとしていて良かった。
内容もかなり面白い。
海洋に流出したプラスチックに90%が見つけられないって知らなかった。ロマンがある。
自分はこういう“実は知らない”というものにロマンを感じる。
そもそも海洋プラスチックに興味を持ったのも、エコバックや紙ストローって意味あるの? と思ったからだった。あいつらの効用がよく分からなかった。
よく分からないけど世の中に出回るものに謎を感じる。果たして紙ストローって意味あるのか?(ちなみに意味無くはないらしい)
こういう身近なところの謎の裏には陰謀が隠れているのだと、陰謀論者のようなことを考えてみるのが楽しい。
いま、これを福岡天神のドトールで書いているが、窓の向こうに黄色の天神愛眼ビルがある。
天神は再開発で古いビルがほとんど取り壊されたのに、天神愛眼ビルだけはポツンと生き残った。決して客の入りの多くなさそうなあの黄色いビルに、何かの権力の気配を感じる……などと書いてみる。
だいぶ脱線したが、海洋プラスチックゴミも身近な謎で、身近な問題なのだ。
この本のおかげで、海洋プラスチックについて今何が分かってて、何が分からないのか、おおよそを掴めた気がする。人に話すいいネタになった(他人が海洋プラスチックの話を面白いと思ってくれるかは定かではないが)
6位 大渦巻への落下・灯台 ポー短編集III SF&ファンタジー編
エドガー・アラン・ポーを初めて読んだ。
これはフォロワーさんにオススメしてもらった本である。
実は今回のランキングはフォロワーさんにオススメしてもらった本が結構出てくるのだが、人からオススメしてもらったからランクインしてる訳じゃないというのは予め言っておきたい。
その証拠に、オススメしてもらったけど全然ハマらなくて感想ツイートが出来なくて困るということがあった。
本のことについてツイートを控えていた時期が実はあったのだが、そういう理由である。
人からオススメしてもらったものが全然好きじゃなかった時ってどうすればいいですか?
話をポーに戻すと、この本は短編の「灯台」が面白くてランクインした。
「灯台」はすごい。なんだこれは! すさまじいセンスだ! ここで話を切るのすげー!! と思って解説を読んだら、なんと途中で亡くなっていたため凄いところで話が切れているらしくズッコケた。
だが途中であることは、またその続きを連想させる。
「灯台」の発想をベースにレイ・ブラッドベリの「霧笛」が生まれ、色々あってゴジラまで繋がる父系が存在するのは、ゴジラ好きの自分にとってはテンションが高まる。
「灯台」、短いしオススメです。
全然好きじゃなかった時は、どうすればいいか困って下さい。
7位 一私小説書きの日乗 憤怒の章
西村賢太を読んだ。と報告したらフォロワーさんが教えてくれた西村賢太の日記作品の一つ。
日記文学というあまり馴染みがなかったジャンルの本であることも手伝って、新鮮で面白かったのでランクイン。
日記文学というものはエッセイみたいなものなんだろうなと思っていたら、違った。少なくとも西村賢太の日記は違った。
起きて飯食ってQさまに出て、酒を購(もと)めて飲んで寝る。というサイクルをだいたい繰り返して、たまに自分の原作の映画に文句を言ったり、ビートたけしと飲んで感激したりしていた。
毎日何か書いて面白いような出来事があるわけではない。なので、何も無ければ基本的なサイクルをただ書けばいい。
何か嫌なことがあっても「嫌なことがあった」とか、割と淡白に書く。もしもたくさん書きたいことがあった日は大量に書く。という感じで、かなり自由で楽そうだった。
なるほど、こういうのでいいのか。と僕の中で何かが開かれた。
それで今年の8月から日記を付け始めた。それで12月の今に至るわけだが、なんと今のところ1日も欠かさずに書き続けている。
これは西村賢太的日記術である(勝手にそう呼んでる)。
そういうわけで非常に実用的な発見を得ることができたためランクイン。僕にとっては日記の指南書なのである。
ちなみに日記は絶対に公開しない、というかできない。思いっきり仕事の内容を書いちゃってるので無理です。
8位 ラストダンス
こちらもフォロワーさんにオススメしてもらった野球小説。
野球は日本文化の色んなところに進出していると分かってはいたけれど、まさか「野球小説」という小説の一ジャンルになっているとは知らなかった(こうして挙げていくと、今年はいろんなジャンルに手を出した1年だったみたいだ)。
同い年だけど全く別々のキャリアを歩んできたピッチャーとキャッチャーが、引退する最後の年にバッテリーを組んで完全試合を成し遂げようとする話である。
僕はあまり野球に詳しくない。基本的なルールが分かるくらいで、正直、完全試合ってどういうことなのか分かってなかった。
この本によって野球への理解が少し深まった気がする。観戦しているだけではわからないプレイヤーの気持ち……キャッチャーは試合中に何を考えているのか、ピッチャーはどういうタイプの人が多いのか、野球選手の仕事はどういうものなのか、引退前はどういうことを考えるのか……などなど、異文化を覗いている気分になれてとても新鮮だった。
とはいえ、作中で語られる野球用語の分からなさったらない。
野球というものはルールが複雑な割に、ルールくらいは既知のものとして語られることが多い。これは小説だけではなくて、中継とか、バラエティとかでもそうだ。それは日本の中で野球が超メジャーだからだと思う。
この本を読むとき、あまり野球を分かっていない人には専門書のような難解さ……いや、別の分野の視座といった方がいいのか、そういうものが与えられることになる。
「野球小説」を読むことで強制的に野球の世界に飛びこむことができるのだ。そういうジャンルなのだなぁ、という気付きがあっていい経験になった。
9位 カラスの教科書
積読期間10年(2013年1月購入)。
もう……10年かかって本を読み終わったという達成感だけでとりあえずベストテンにランクイン。
そして、10位に挙げている「キリスト教美術史」と比べると、より生活に近いところでタメになる知見を得られたな、という理由で9位にランクインさせた。
カラスというのは街に溢れているので、本を読んで知識を実践する機会がすぐにあるのが嬉しい。朝出勤する時に見るカラスへの視線が変わると出勤が少しだけ楽しくなる。
「今、俺が見ていることをあのカラスは分かっているな」とか、「あのカラスはハシブトガラスだな……たぶん」とか考えながら歩ける。
印象に残っているのは、カラスにとって人間は巨獣なので、基本的に怖がっているという話だ。
道端でたむろしているカラスは少し怖いが、こちらが避けなければカラスの方から避けてくれるらしい。カラスも巨獣に近付かれたら逃げたいらしいのだ。ただし、人間がしょっちゅう避けるようになってしまうと学習してふんぞり返るらしい。
この知識を知ってから、僕はカラスに向かっていくようにしている。
カラスを意識して見るようになると、上を見上げる機会が多くなる。
カラスに限らず、鳥たちは街を巨大な森だと思っているらしい。電柱やマンションは木だ。マンションのベランダは木のウロだ。ビルは断崖だ。
人間は森にやたらいるサルで、ゴミ袋はサルが殺して捨てた動物の死骸(薄皮を破ると食べ物が出てくる塊のため)だ。
上を見上げているとそのことを意識して、街の景色の解釈が少し変わる。カラスを見る目が変わることで、連動して街も違う風景に見えてくることがまた楽しい。
こういう風に、動物側の視点で物を語る話が好きだ。我々は人間だから何でも人間目線で考えてしまうが、そういう別の生き物の目線を知ることでもう少し人生が豊かになる気がする。
イコン画に興味があったので購入。
結構自分はルネサンスとか写実的な絵よりも印象はとかイコンとか、そういうリアルな感じじゃない絵が好きなのかもなぁ、というのが分かってきたので、イコン芸術について少し知識を深めたら面白いんじゃないかと思ったから買った。
実際面白くてタメになったので10位にランクイン。
キリストの名場面を絵にするためのイコン画なので、現実の整合性をどんどん無視するのが面白い。
大人のキリストと子供のキリストを同じ画面に描いたり、キリストの洗礼の場面を描く時に、洗礼する川の形をあり得ない形に変えてしまったりする。
※洗礼はキリストの全身を川の水に浸したが、絵にする時に、画面の構成上では水に沈んでいるキリストを描けない(キリストを画面の真ん中に描かなきゃいけないから)。そのためキリストを川に沈めるのではなく、川がキリストの形に曲がって流れているような絵になっている。
上手な絵ではなく崩壊した絵なのだけれど、信仰上はそれで良い。みたいな、異なる価値観で描かれているのがイコン画は面白い。
そもそも絵なんだから絶対にリアルに描かなければいけないわけでもなくて、逆にリアルじゃないことで神秘性が増すという理屈があるらしい。
それはどういうメカニズムでそうなるのかピンと来なかったけれど、確かに写真という超写実的な絵がある現代だと、リアルな絵というもののありがたみは薄れているのかもしれないので、そういう感覚が関係しているのだろうか、などと思った。
とにかく、この本で新しい知見があったというか、イコン画げの興味がさらに湧いた。
この本はイコン画以降のキリスト教美術(バロックとかルネサンスとか)も紹介しているけれど、自分の興味は確実にイコン画だった。
ちなみに自分は、リアルじゃない絵が好きと最初に書いたが、抽象画まで行ってしまうと本当に何が描いてあるのか分からないので、あんまり好きじゃないです。
以上、2023年に読んだ本のベストテンでした。
ここまで読んでくれた人がいたらありがとうございます。
他人の感想文を8,000字も読むなんてのは凄いことですよ……
それではみなさんメリークリスマス!