時間旅行が自由だったのはほんの一瞬だった。
世界的なパンデミックが理由であれば仕方がない。しかも時間移動によって、感染拡大は今までの地理的な2次元的拡大ではなく、時代をまたがる4次元的拡大を見せた。不慣れな4次元的水際対策は功を成さず、気付いたときにはウイルスは既に多くの過去から未来まで一気に拡大してしまった。
WHO(World Hour Organization)は感染拡大がまだ確認されていない時代への時間移動をとりわけ固く禁じた。
時間移動の厳しい制約が世界中で容認されたことによって、ようやくウイルスの起源の犯人(正確には"犯時代"と言うべきかもしれない)探しが始まった。
しかし、当初から政治家たちが予期していた通り、各国の思惑が複雑に絡み合い、調査は難航した……
今、私はWHOの特例調査派遣団の一員として過去に派遣されようとしている。
ウイルスの起源のヒントはやはり感染拡大する前の時代から観測していくしかないのだ。成功の確率の低いミッションだが、他に方法はない。
これで今生の別れになるかもしれない最愛の家族に別れを告げ、私は2019年行きのタイムマシンに乗り込んだ。