いまだにうまく説明できない話がある。
初めての一人暮らしをした築20年のマンションの話だ。前の住人が置いていったものは使っていいとのことだったので、エアコンや蛍光灯を貰った。その中にあったのがあの物干し竿だ。
その物干し竿は最初から干し台に刺さっていた。汚かったので最初は使うのをためらったのだが、物干し竿を買う面倒臭さに負けて使うことにした。
変なことに気付いたのは引っ越しの準備の時だ。
この物干し竿、外せないのだ。
干し台に刺さっている状態から外せない。ベランダの干し台は竿を通す穴が完全に結合されて丸穴になっているタイプで、上から竿をかけるということが出来ない。そして竿を片側の穴から引き抜こうとすると、隣の部屋のベランダを仕切っている板に当たってしまう。古い物干し竿なので、竿自体を伸縮させる仕組みも無い。
どうしても外したいのであれば方法は2つ、隣との仕切りを壊すか、干し台自体を工具で取り外すかだ。
物干し竿のためにそんな大袈裟なことはできず、その物干し竿はマンションに置いていった。
あの物干し竿、一体前の住人はどうやって設置したのか、そして今もあのマンションにあるのだろうか。