魚の感想

twitterの外付けの感想置き場として使っています。

家の周りの長屋っぽい建物の話

いまの家に引っ越してきて2年。

この地域は建物が古い。でも再開発の気配も感じる。新しいマンションや若者向けのカフェなんかの間にボロボロの木造建築とかが立っていたりして、そのチグハグ具合がなんだか面白い。

 

再開発をする理由とか基準みたいなものはよく分からないが、おそらく今後も古い建物はどんどん淘汰されていって最終的に近代的な建物ばかりになるのだろう。そう考えると寂しいものがある。

まだ引っ越してきて2年だから感傷に浸るのはおかしいのだけれども、こういう感情は多くの人の共通認識として心の中にあって、再開発が進んでいる風景をトリガーとして自動的に呼び起こされるような感情なのだろな……。

 

なんの話?

あぁそうそう、建物のチグハグ具合が面白いって話をしたかったんだ。

 

特に僕が面白がっているのはもともと長屋街だったんじゃないかと思われる通りで、この通りも古い建物がポツポツと立っている。

歩いていると、入り口の面が小さくて側面の面積が大きくなっている縦長の、長屋っぽい建物がある。長屋っぽい建物には住宅は無く、古い居酒屋や昔ながらのタバコ屋がそういう建物になっている。

 

この建物がちょいちょいあるので、僕はこの通りが長屋街だったんじゃないかと踏んでいるのだが、実際のところはちゃんと調べていないので分からない。

ひとつ分かるのは長屋の建物はどれもかなり年季が入っていることと、他の古い建物と同じく、再開発によって絶滅の道筋を辿っているということだ。

 

長屋街というものは、長屋同士がピアノの鍵盤のように通りに対して整然とならんでいるものだが、この通りは長屋街とは言えないガタガタとした街並みになっている。

再開発によって長屋が消え、代わりに建てられた今風の飲食店やマンションが長屋街らしい景観をおじいちゃんの歯のようにガタガタした建物の景観に変えてしまっているのだ。

 

僕が引っ越してきてからも、ひとつの長屋が解体された。

解体された長屋の隣には同じく長屋のタバコ屋がある。タバコ屋なのだが、タバコを売っているところを見たことがない。というよりもシャッターが開いているところを見たことがない。

「たばこ」と書かれた時代を感じる鉄製の看板とシャッターに書かれたくすんだ文字に時代を感じる。今時タバコ屋など成立できないだろう、タバコ屋でタバコを買うくらいなら少し先にあるコンビニでコーヒーと一緒にタバコを買う。

 

そんなわけでタバコ屋は店として機能しているようには見えない。タバコ屋ではなく住居として使っているのかもしれないが、人の気配というものを感じたことが無い。

とにかく寂しい印象を受けるのだ。このタバコ屋も再開発の波にあおられて、いつか解体されてしまうのだろう。

 

僕が驚いたのは、このタバコ屋の側壁だ。隣が解体されたことで、このタバコ屋の側壁が見れるようになったのだが、なんと全面にトタンが貼られていた。トタン屋根ならぬトタン壁なのだ。

窓の類は一切ない。そもそも長屋なので側壁に窓がある必要がないのは分かるが、全面トタンということがあるのだろうか?

しかもトタンはかなり古くてサビだらけだ、そしてサビたトタンに穴が空いており、穴の奥には骨組みと見られる木が顔をのぞかせているのだ。

 

言ってしまえばオンボロだったのである。

 

このタバコ屋古いな〜とは思っていたが、まさか見えないところでこんなにもボロボロだったとは思わなかった。

それまでは人が住んでいる可能性を考えていたが、仮に人が住んでいればトタンの穴からの隙間風を受けることになるので、これは住居になっているということは無いんじゃないかという考えに至った。

 

想像してみてほしいのだが、壁の一面全てがボロボロのトタンで出来ているというのはちょっと不気味である。しかし、この長屋が建てられた時代だったり、家主の経済状況等を考えると、単に不気味というだけでは片付けられない物悲しさや切なさを感じる。

 

そしてある日、とうとう、この古いタバコ屋に足場が組まれていた。

 

「あぁ、解体されてしまうんだな」と出し抜けに思った。

 

足場は工事用の防音シートを被せられて中身が見えなくなっていく。

工事が始まってしばらく経った後、とうとう足場が取り外された。

 

意外なことに、タバコ屋は解体されていなかった……そればかりではない、なんとサビと穴だらけだったトタン壁が新しいトタンに張り替えられていたのだ。

 

そうなのだ。新しいトタンに張り替えられていた。

僕が勝手に解体工事だと思っていたものは、トタンからトタンへの外壁リフォーム工事だったのだ。

 

なぜトタンを剥いでトタンを貼ったのか。普通はコンクリートとかにしたりしないのだろうか。そこには家主の厳しい経済状況が反映されているのかもしれないが、そんなものを通り越して狂気的なものを感じる。というか、人住んでたんだ。

 

いま、タバコ屋の隣の解体された土地は工事予定地となっている。出ている看板を見ると、今度はマンションが立つらしい。

おじいちゃんのガタガタの歯のようになっている元長屋街は、インプラントで元々の長屋の形とは歪に異なる新しい歯を与えられようとしている。その隣に立つのはトタン壁のタバコ屋だ。

いつかはタバコ屋も再開発によって小綺麗なマンションとかに変わっていくのだろう。その間だけこのちょっと変わった風景が続くと思うとなんだか面白いのだ。

 

(新しいマンションも壁がトタンだったらめちゃくちゃ怖いね)