少し前に会社を辞めた人と会っていた。
今の会社は博多の方にあるらしい。
慣れないプログラム言語でも、優しい先輩が丁寧に教えてくれるらしい。
給料は必死で残業して手に入っていたくらいの金額が、残業無しで手に入るくらいになったらしい。
気楽だから楽しいらしい。
(僕が今いる)会社を辞める時、社長や役員の説得があったらしく、待遇を良くするから考え直さないか? などと言われたらしい。その人は「待遇じゃ、無かったんだよなぁ……問題は」とボヤいていた。
それを聞いて、今の会社では辞めると言い出すと偉い人から説得があるということと、辞めると言い出すと待遇が良くなるということを知ってしまった。
そして、仮に、自分が辞めると言い出した時に説得も待遇の改善も持ちかけられなかったら落ち込むなと思った。
僕は色々聞きたいことがあったつもりだったのに、特に何も聞けなかった。
「そもそもなんで辞めたんですか?」
とか
「辞める時ってどうやって切り出せばいいんですか?」
とか
「転職先ってどうやって探しましたか?」
とか……
聞きたかったけれど、自分の質問が全部自分本位だったので気が引けた。あとアルコールの量がもう少し足りなかった。それに数日前から手首が痛くて、曲げるたびに痛みが走って集中できなかった。
結局、「彼女と最近どうですか?」みたいな質問をしたんだと思う。そろそろ結婚しようと思っているよ、みたいな話の方向にその後移り変わっていったから、多分そんなことを聞いたのだろう。
僕はその人みたいになりたいなと思ったが、その人のどの部分に憧れるのかイマイチ分からない。
新しい職場に満足しているところなのか、辞める時に引き止められるほど必要とされていたところなのか、結婚するところなのか。よく分からない。自分が何を求めているのか、何を求めればいいのか分からない。
ただその人は前を向いているような気がした。全体的に明るい雰囲気をまとっていた。
そういうなんとなくの雰囲気にあてられて、電灯に群がる羽虫のように引き寄せられていたのかもしれない。
お店の椅子から立ち上がるとき手を着いたら手首が曲がってめちゃくちゃ痛かった。
その手で敬礼しながら「お幸せに!」なんて言ってみたり、「まだ分かんないからね!?」なんて言われてみたりして、機会があればまた会おうみたいな話をして、解散した。
そういえば、今日はいい夫婦の日らしい。
そして明日は勤労感謝の日だ。