夢の話です。
田舎の住宅街を自転車で走っていた僕は集合墓地のすぐ側を走る道に出た。
集合墓地はかなり大きいらしく、しばらく自転車を走らせてもまだまだお墓が並ぶ。
長々とお墓が続き、最初は綺麗に整備されている金持ちが建てたような豪勢な墓石が続いていた集合墓地もだんだん墓石がショボくなり、地面もコンクリートから土になっていき、雰囲気もどんどんみすぼらしい墓地になっていった。
それでも集合墓地の終わりは見えない。
今は日がさんさんと降り注ぐ真昼なので、怖いということはないが、不気味ではあった。
そのとき僕が考えていたのは自分の墓石ってどんなふうにしよう? というものであった。みすぼらしい墓地を見ていると否が応でもこんな風にはなりたくないと思ったのであった。
すると前から僕と同じように自転車で青年がやってきてすれ違う。
次の瞬間、確実にすれ違ったはずの青年がいつの間にか僕の真後ろにいて
「すみません! すみません!」
と声をかけてくるので、周りが墓地の道で思わず止まってしまう。
「僕のこと分かりますか?」
その青年が聞いてくるので僕は顔をよくよく見てみる。短髪で笑顔が似合う気がする。笑った顔の目元に薄い小シワが入っているが、自分よりも若いであろう、20代前半くらいか、そして絶対に初対面である。
誰だか分かっていなさそうな反応が気に入らなかったのか、その青年はたたみ掛けてくる。
「〇〇さんですよね?」
僕の名前を言ってくる。
「青色好きですよね?」
「納豆好きですよね?」
「〇〇で働いてますよね?」
「〇〇に住んでますよね?」
僕の個人情報を次々言ってくる。なんでそんなこと知っているんだろう、気持ち悪いなと思っていると
「え? なんで分かんないんですか?」
とか言われる。
「っていうか、僕のこと気持ち悪いとか思ってます? さっき自分の墓どうしようかなとか考えてましたよね? その前はこの墓地はずっと続くなぁとか考えてましたよね?」
いつの間にかその青年の言っていることは僕の個人情報だけでなく、僕が考えていることや青年に会う前に考えていたことを全て言い当てるようになっていた。
そして、問い詰めるように質問を連発してくる間もこの青年はにこやかな笑顔を全く崩さないのである。僕はとうとう怖くなった。これはただ者ではない。どうしよう、逃げ出したい。
いきなり場面が変わった。何せ夢の中の話である、場面はいきなり変わる。
その場面では僕はイスに座っており、見たこともないおばさんと対面していた。
おばさんは僕を見ながらゆっくり口を開き
「それは、あなた、“せっとうこわし”に会いましたね」
と言った。
せ……“せっとうこわし”? なんだそれは……。
どうやら僕はいつの間にかそのおばさんに謎の青年の話をしていたようなのだ、おばさんは続ける。
「“せっとうこわし”というのは言ってみれば妖怪でね、人の心を読んで、人と友達になろうとしている妖怪なんですよ、まぁ悪い妖怪じゃないから大丈夫ですよ」
次の瞬間、目が覚めた。
なんだったんだ今日の夢は、ディテールがめちゃくちゃな割には異常に明晰で、起きた後も景色やセリフや青年の顔まではっきり覚えている。
しかも妙にリアルだった。僕は夢の中にいるときに「あっこれ夢だな」と認識できるタイプなのだが、今回は認識も出来ないほどの現実感があった。こうやって書き起こしていると別にリアルでもなんでもないのに不思議だ。
なにより突如出てきた“せっとうこわし”なる妖怪だ。なんだその名前……窃盗壊し? 接頭壊し? 意味が分からない。
一応検索してみたけれどやっぱり“せっとうこわし”なんて妖怪出てこない。やはり僕の夢が生み出したオリジナル妖怪なのだろうか?
それにしても「人と友達になりたくて人の心を読む」だなんて、逆に友達無くしそうな特徴だと思うし、初対面の人への距離感の詰めかたも最悪だと思った。ソーシャルディスタンスを守れ。