夢というのは見た直後よりも、見てから数日経って、脳がいい感じに情報を脚色してくれてからの方が鮮明に思い出せるものです。正確には思い出すというよりも、思い起こすと言う方が正しいでしょうか。
ある日見た夢の記憶がある程度鮮明に思い出せてきたので、ちょっと書きます。
僕が座っているのは木でできた4人テーブルで、目の前にはちょっとした料理とお酒。
周りを見渡すと白人のオッサンが他のテーブルにちらほら居て、みんな僕と同じように料理と酒を大きめのグラスで飲んでいる。
カウンター越しにはやはり白人の太ったオッサンがいて、客を睨むように見ている。多分店主だろう。僕には自分で料理を頼んだ記憶はない。
小窓から外は見えない、夜だからだ。
でも窓のふちに雪がびっしりと付いており、雪は次々とガラスに当たってふちに積もっていく。どうやら吹雪らしい。
もうこの時点で気付く……「これ絶対夢やんけ」
「雰囲気的に北欧だなこれは、北欧のバーか?」
北欧に妙な憧れを抱く僕のイメージが作り出したテンプレートなバーに僕はいた。
思いっきり映画から影響を受けているバーだ、本当に北欧に行ってもこんなバーは多分無いんだろうと思う。
いつの間にか男と相席になっている。他にテーブルは空いているのになんで座ってきたんだろう? まぁ夢だから気にしないけど。
男はギターケースを持っている。テーブルに置いてあるそのギターケースを僕はガン見してしまった。
夢の中で、僕は僕の行動を微妙に変えることができない。変えられる夢もあるけどこの夢はダメっぽい。
男が僕の視線に気付いた。周りのオッサンたちと比べると若いが、やはり白人だ。僕のイメージする北欧には白人しかいないらしい。
男が何か言ってきた。
「これ、ストラディバリウスなんですよ」
めっちゃドヤ顔だった。
最初に思ったのが「聞いてねぇよ」っていうこと、そして「日本語じゃん」と「自慢かよ」。
ともあれ、夢の中の男はストラディバリウスを持っていた。なんでそんな超高いバイオリンをバーに持ってきて机の上に置いた?
よく考えたらバイオリンの銘柄ってストラディバリウスしか知らね〜。そりゃ夢の中に出てくるバイオリンはストラディバリウス一種だけだわ……。
自分の音楽知識の少なさを夢で知る。
男は調子を良くしたのか「一曲弾きましょうか?」と言ってきた。日本語のドヤ顔で。
「いや、お願いしてねぇよ」と思う。思うだけで、声は出ない。
バイオリンの曲なんて情熱大陸の葉加瀬太郎のテッテテ〜レッレ〜♪しか知らない僕である。
その僕の夢の中でストラディバリウスを弾く男……大丈夫か? 変な音出たりしないか? そもそもストラディバリウスの音色ってどんなの?
そんなことを考えているうちに男はケースからストラディバリウス(多分)を出し、構える。弦が触れる。どうなる? 葉加瀬太郎か……?
♬〜
葉加瀬太郎じゃない!!
穏やかな、それで荘厳な、まるで夢の中にいるような美しい音色だった。夢の中にいるんだけど。
周りを見回すと、オッサンたちがみんな音色に酔っていた。小窓の外はまだ暗く、雪が打ち付けている。だが、その景色と音色の合わさった情景たるや、現実世界では得難いと思える美しさ
音色はどこか懐かしさをも含んでいた。おそらく、本当にどこかで聞いたことがあるのだろう、ストラディバリウスでは無いだろうが……どこで聞いたんだろう? 全く分からない
気付いたら、夢の中で泣いていた。今考えると笑っちゃうのだが、泣いてた。
バイオリンの音色が美しかったのもあるが、それよりも、僕の中にまだこんなに綺麗なものが眠っていたことが嬉しかったのだと思う。
「ストラディバリウス」という絶対に普段使いしないような固有名詞を夢が脳の奥から引っ張り出したついでに、この音色をオマケで持ってきたのだろうか? なにも分からない、なにも分からないままに泣いて、次の瞬間、起きていた。
そして現実の僕は泣いていなかった。
起きた瞬間に思い出そうとしたものの、どうしてもあの音色のリズムや音がはっきりと思い出せない。思い出せたのは、この記事で前半ダラダラと書いた情景や男のドヤ顔だけだ。だれか僕が聞いたバイオリンの曲に思い当たる人とかいませんかね、ヒントが情熱大陸のテッテテ〜レッレ〜♪ではないということだけですけれど……。
以上、夢の話でした。